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日本映画は世界に少なからぬ影響を与えてきたが、黒澤明にしても石原裕次郎にしても、中平康にしても故人である。
いままで述べてきたことだけではなく、日本人なら誰もがすぐに似ていると気づく作品も、外国には少なくない。
『ブラインド・フユーリー』は、『座頭市血煙り街道』のリメークといっていい作品だし、『ロード・トゥ・パーディション』とわかる石原裕次郎主演『夜霧よ今夜も有難う』や、『冒険者たち』に想を得た『宿無し』、『黄金のパートナー』、っておかなければならない。
ヨーロッパの若い映画人に北野武が大きな影響を与えていることは、二〇〇二年のはじめ、スウェーデン映画協会(SFI)で開催された会合に参加した際、フィンランドの映画関係者から、フィンランドの若い監督たちが北野武のまねばかりして困ると直接言われて知った。
しかし低迷する度に日本映画を再生手段として使ってきたハリウッドでは最近、日本映画のリメーク権を正式に買って、リメークすることが多くなっている。
さらにはオリジナル版の日本人監督をハリウッドに招き、リメーク版を作らせることも増えている。
相変わらず複数の黒澤作品のリメークが予定に挙がっており、『Shall Weダンス?』のリメーク版が公開され、『幸福の黄色いハンカチ』た日本映画はほとんどリメークのリストに載っている。
最も目立つのは、日本の若手監督が手がけた日本のホラー作品群だ。
『リング』のリメーク版の商業的成功以来、日本のホラーが注目され、『呪怨』は、アメリカで公開以来二過連続、興行成績一位を占めた。
柳の下にドジョウがいなくなるまで手出しをするハリウッドは、次々とリメーク作品をリストに入れている。
中田秀夫監督の『女優霊』、『灰暗い水の底から』、『カオス』まさに買いあさっているという感じだ。
小泉八雲をはじめとして、外国人は日本のストーリーならまずホラーに目をつけ軋。
海外でもすでに特定の市場で成功が検証されたものを、手直ししてスケールアップして大きな市場に出すというハリウッドのやり方を、日本映画に踏聾しようとしている。
盗用ではなく、権利が認められ。
海外で日本人が活躍する場が広がったことはうれしいが、あまり手放しでは喜べない。
過去の例を見ればわかるように、ハリウッドは、ストーリーでも才能でも使い捨てにするからだ。
リメーク権が大量に売れたことで、日本映画が世界に認められたわけではなく、本当に日本映画に力があるならば、優秀な日本の映画人が海外に出て行くのではなく、日本の映画界に海外の才能を引きつけ、日本で働きたいという外国の映画人がたくさん出てくるはすだ。
それが実際に起きているのがアニメーションである。
黒澤明からのバトンタッチ日本のアニメーション・スタジオに行くと、外国人のスタッフに会うことが多い。
日本の実写映画で、外国人のスタッフに会うというのは、黒澤映画くらいしかなかった。
私の個人的な経験でも、こういうことがある。
かつて海外から映画人が来日すると、言うことは決まっていた。
「黒澤明監督に会いたい」。
黒澤監督に簡単に会えるわけはなく、せめて黒澤監督にゆかりの場所を訪問したいという人が多いので、黒澤監督の子息の久雄氏にお願いして、何度がハリウッドの映画人を横浜にある黒澤スタジオに連れていった。
来日してからマイケル・クライトンから「謝金はいらないから、黒澤明監督に会いたい」と言われた。
当時、監督は怪我をされていて、とても会える状態ではなかったので、黒澤久雄氏に無理を言って、代わりに会っていただいたこともあった。
しかし、黒澤監督が亡くなられてから、来日した映画人が会いたがるのは、アニメーション監督になった。
宮崎駿であり、押井守であり、大友克洋になった。
最近では、彼らにアーティストの村上隆が加わった。
スタジオ・ジプリやプロダクションIG、いまはなき「スチームボーイ・スタジオ」などに、『ポカホンタス』のエリック・ゴールドハーグ監督、ハリウッド・アニメーター会長、ILM(ルーカス・フィルムの特撮工房)の社長、PDI行ったかわからないくらいだ。
海外、特にハリウッドの映画人の日本映画への関心が、日本の実写映画からアニメーションに移行していることを実感する出来事があった。
二〇〇一年夏、私の友人で、ハリウッドのアメリカ映画芸術科学アカデミー財団で、日本のアニメーションに関する有料セミナーを、アカデミー会員向けに開くので、企画に協力してほしいと頼まれた。
案の定、向こうから招聯したいと希望してきたのは、宮崎、押井、大友のいわゆる「御三家」といわれる三人の監督のいずれかということだった。
その後、九・一一のテロ事件があり、安全上の問題から依頼を私のほうで控えることにし、私も出席できなくなってしまった。
当時ハリウッド留学中の幾原邦彦監督に出演してもらうことにし、プロダクションIGの石川光久社長に、アメリカで用事があったこともあって、参加してもらった。
二〇〇四年十一月十四日に開かれた「日本から描く‥アニメとその影響」という題名のセミナーは、アカデミー協会主催のセミナーの中で、チケットが最速で売り切れたという報告を受けた。
そこで配布されたパンフレットには、『もののけ姫』、『GHOST三家』の作品と、今敏監督の『パーフェクト・ブルー』の写真が掲載されていた。
「日本から描く‥アニメとその影響」アカデミー協会のセミナーの題名として「その影響」とうたわれているように、日本のアニメーションはアメリカ映画に「影響」を与えてきた。
しかし、日本のアニメーションには影響力の自覚が、つい最近までなかった。
一九九七年か一九九八年に、ハリウッドのアニメーター・ユニオンのトム・シート会長からメールがあり、第二十六回アニー賞で宮崎駿監督が生涯功労賞に選ばれたので、バーバンクで開かれる授賞式に列席するように伝えてほしいと頼まれた。
バーバンクはロサンゼルス郊外でアニメーション・スタジオが集積している。
鈴木敏夫プロデューサーに伝えたところ、事情があって監督は出席できないということだったので、シートに伝えると、宮崎監督のための席が用意されているので、お前が代わりに来ないかと誘われた。
アニー賞を知りたいという気もあって、授賞式に出席して最前列の宮崎監督の席に座って、式典を見守った。
二〇〇二年にアカデミー賞に長編アニメーション部門ができるまで、アニー賞がアメリカのアニメーション業界で最も権威のある賞と言われていた。
米アカデミー賞に長編アニメーション部門ができた翌年には『千と千尋の神隠し』がオスカーを獲得しているが、すでにアメリカのアニメーションの関係者は公式に宮崎監督の業績を顕彰していたのだ。
のプロデューサーであるマイケル・バッケスは、私がプレゼントした『天空の城ラビユタ』ューブリック」と繰り返し言っていた。
かつて、ルーカスやスピルバーグやスコセッシが黒澤を師として敬愛していたように、多くのアニメーターは宮崎を師とあおぎ、特に『トイ・ストーリー』のジョン・ラセッタ監督との交友はつとに有名で、『ラセターさん、ありがとう』というドキュメンタリー映像にもなっている。
いま日本の表現者で、海外に最も大きな影響力を持っているのは、宮崎、押井、大友であることは疑いを入れない。
映画の世界に限定しても世界中にその痕跡が認められる。
アニメーションの代名詞として自他共に許していたディズニーの作品にしてもそうだ。
ゲーリー・トゥルースディルとカーク・ワイズの共同監督の二作品から、宮崎監督の『ルパン三世・カリオストロの城』に似たシーンを日本人なら誰でも抽出できるだろう。

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